【眺墨賞】Slack #027
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第27回となる2019年1月の受賞は,Slackです.Slackは2013年8月からサービスを提供しているコミュニケーションツール (チャットツール) です.Slackという名前は Searchable Log of All Conversation and Knowledge (= 検索可能な全ての会話と知見の記録) のアクロニムだそうですが,一般的な単語としての slack は「緩い」「弛んだ」「いい加減な」といった意味の形容詞です.

Slackは2019年1月16日にロゴを刷新しました.今回の眺墨賞の受賞対象はその変更後のロゴです.この新しいロゴは従来のロゴの欠点を補うようにデザインされたそうです.以前のロゴはこんな感じでした.

色使いは新しいものと似ていますが,こちらの古いほうのロゴはシンプルに見えて8色もの色を使っています (公式ブログは11色だと書いているのですが,どの色を数えているのでしょうか…).色数を増やすことによってリッチな印象を与えることはできるかも知れませんが,引き換えに「使いどころが難しい」というデメリットが出てきます.「写真の上に重ねて置く」といったロゴの運用が,ロゴの中で多くの色を使用してしまうと極めて難しくなってしまうのです.
新しいロゴではそうした問題の解決が図られています.色数はぐっと4色にまで減らされ,乱雑さは抑えられています.19 × 19のグリッドに沿った形になっており,図形的にも大変シンプルであることがわかります.

写真の上で使用するための単色 (白/黒) のロゴも用意されており,Slackのロゴの利用者がどのような使い方をしてもSlackロゴが正しくブランドアイデンティティを表現できるように設計されています.これについてはすみながめの解説動画#68でも同じことを説明しています.
さてもう1つ,新しいSlackのロゴの面白い活用方法についても紹介します.公式ブログでは次のように書かれています.
色使いもよりシンプルに。そして洗練されていながらも、元のロゴの本質を引き継いだ従来のロゴの進化版であり、あらゆる場所で柔軟に活用しやすく、なによりも Slack というブランドをうまく象徴するロゴになったと思います。
Slack のロゴが新しくなりました! | The Official Slack Blog
ここで言う「柔軟に活用」とは一体なんでしょうか?その1つの答えがSlackの広告に現れています.下の画像を見て「新しいSlackのロゴと関係がありそうだな」と多くの人が思うのであれば,まずは第1成果は達成されたと言えるでしょう.


面白いのはその先です.なんとこの画像では上からモールス信号で “Where Work Happens” と書かれているのです!モールス信号の・と-を,Slackの新しいロゴの部品で表現しているのです.これこそが公式ブログの言う「柔軟に活用」の良い例なのでしょう.
シンプルなロゴには応用の余地があり,柔軟な運用によりより深みを増していける可能性があります.新しいSlackのロゴはまさに,そうした意図を込めてデザインされたものだと思います.