【眺墨賞】LIFUL HOME’S #026

眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

眺墨賞 表彰盾

第26回となる2018年12月の受賞は,LIFUL HOME’Sです.もう少し厳密には,2016年12月1日から21日までの間に開催されたキャンペーンの広告クリエイティブが,初州のツボにはまったので紹介します.

おウチ見つかるホームズくん

HOME’S のブランドは2015年12月に刷新されました.詳しいリブランディングに関するデザイナーのブログ記事からも学ぶことが多く,大変面白い記事になっています.ぜひこちらも併せて読みたいですが,今回はブランドロゴではなく,広告のクリエイティブを見ていきましょう.

何てことのない広告かも知れませんが,注目すべきは下段に書かれたカタカナです.この「ホームズ」の「ム」と「ズ」のグリフは,すみながめが制作するオリジナルのフリーフォント「Tabashike」にそっくりなのです.とはいえ,この広告で使用されているのは何か特定のフォントではなく,広告のために書き下ろされたタイポグラフィかと推測しています.

Tabashikeとの比較

Tabashikeを公開して配布したのは2018年12月28日 (すみながめがYouTubeにチャンネルを開設して1000日記念日) でしたが,実は2016年の頃から初州の中に構想はありました.2016年12月にこの広告を見たときにはその構想はまたTabashikeのような具体的なものではありませんでした.しかし,2019年の今でも「この広告を見た」ということを記憶しているくらいに,初州の構想に強い関連を持っていた広告でした.

LIFUL HOME’Sの広告では「くん」の部分も含めて,全体がとても幾何学的に整った字形です.下の画像は広告のグリフを適当にトレースしたものです.

斜線の角度

実際の広告の字体では角丸の処理が行われているので上掲のものとはいくらか異なりますが,基本的な構造は同じです.画像の中にも記載していますが,LIFUL HOME’Sの件の広告に描かれた文字は150度を単位として非常に整った形状をしていることが分かります.赤が105度 (反対側は75度) ,青が120度 (反対側は60度) の傾斜になっています.


このような幾何学的にとても整理された文字を見ると,デザイナーの佐藤可士和氏が制作したユニクロの字体を思い起こします.

ユニクロロゴ

佐藤可士和氏のウェブサイトには,この特徴的なグリフデザインについて次のように説明しています.

衣料品ブランド「ユニクロ」。そのコミュニケーション戦略のクリエイティブ・ディレクションでは、高品質の商品を低価格で提供する日本ブランドという特長を、「美意識ある超合理性」というコンセプトに集約させた。

KASHIWA SATO – UNIQLO

このデザインは,どういった意味で「合理的」なのでしょうか?これらの自体はとても幾何学的に整えられた字体です.例えば弧のオーバーシュートやアンダーシュートは意図的に無視されていますし,SやBなど下半身が大きくなるべき字体でも上下対称に作られるなど,単純な図形的統一感が視覚調整よりも優先されています.

自体の設計図

通常,タイポグラフィを制作するには繊細で微妙な視覚調整が欠かせません.それをすることによって,幾何学的に厳密な統一性はありませんが,人間の目には整って美しく見えるのです.そのような作業はデザイナー自身の「目検」が頼りになるので,どうしても効率的にサクサクとデザインを進行するのは難しくなります.

一方,幾何学に従ったデザインであれば,デザイナーによる目検は不要ですので,制作は圧倒的に簡単です.時短でそれらしい成果物を効率的に得ることができます.これこそが「合理的」ということの意味でしょう.


LIFUL HOME’Sのキャンペーン広告の字体から始めて,幾何学的なタイポグラフィが帯びるある種の「合理性」について検討してみました.該当の広告に描かれたタイポグラフィは,既存のフォントではなく描き下ろしのタイポグラフィだとすると,あの広告のタイポグラフィにも「納期までに仕上げるための合理的なタイポグラフィ」という側面があったかも知れません.

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