【眺墨賞】竹下製菓 #029
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第29回となる2019年3月の受賞は,竹下製菓です.竹下製菓は1927年に設立された佐賀県のアイスメーカーです.製造と販売の両方を行っています.主力製品のブラックモンブランというチョコレートコーティングされたバニラアイスを食べたことがある人も多いのではないでしょうか.

竹下製菓の企業ロゴは,とても前衛的なスタイルだと初州は感じました.製造業の企業ロゴでは「製」の字の下半分にある「衣」が大胆にデフォルメされることはしばしばありますが,竹下製菓のロゴもその例外ではありません.下の3つの例のうち,大王製紙だけは元の「製」の字の面影を少し残しますが,どれもデフォルメされたデザインとなっています.

しかし,この「製」だけをもって初州がこのロゴに感心したわけではありません.むしろ前半の「竹下」の部分から意外な感動を受けたのです.
まず「竹」の字も,「製」の字の「衣」部と同じく,かなり強くデフォルメされています.もともと「竹」という漢字は上半身が過密で下半身がスカスカな構造となっていますが,それを無視して線の密度を中央でバランスさせています.
また「竹」の字と同じマナーで図案化された「下」の字は,「竹」ほど強くデフォルメされてはいません.それでも縦線と横線のみで構成することで同じ印象に整えられた「竹」と並ぶことによって,とても美しいリズムが生まれています.

そして「竹」と「下」の間のカーニングがギチギチであることも目を引くポイントでしょう.「製」と「菓」や,後続の「株式会社」のどの字の間にも微妙なカーニングが行われバランスが取られていますが,「竹」と「下」の重なりは抜群に大きくなっています.社名の文字列の中で「固有名詞」度のより高い「竹下」の部分にこそ独自性とデザイン性を凝縮させるべし,というデザイナーの意図が見えてくるようです.
Panasonic,Lufthansa,THE NORTH FACEなどがHelveticaをベースしているように,社名のロゴであっても既存のフォントから制作を始めるデザインも少なくありません.そういった中で,大変独自性の高いロゴを採用している竹下製菓のロゴは,細部まで味わい深いものになっています.