眺墨賞ロゴ 意味と意図

眺墨賞はすみながめが主催する表彰企画で,毎月初州が発見した素晴らしいデザインを取り上げ,その詳細を解説する企画です.眺墨賞が2016年の11月に創設されて以来,2019年の3月までに29個もの優れたデザインの特徴を解説してきました.そしてその第29回で初めて,眺墨賞のロゴをすみながめのウェブサイトで公開し掲載しました.

眺墨賞 ロゴ

上の画像が眺墨賞の新しいロゴです (といってもこれまではロゴがなかったので「古いロゴ」というものは無いんですが).何やら伝統を感じさせる印影のようなデザインになっています.下にある「眺墨賞」の文字は,オープンソースフォントである Noto Serif CJK JP の Black を使用しています.この記事では,このロゴの意味と意図を説明します.ポイントは次の4つです.

  • 綻びと金のデザイン
  • 九畳篆のエッセンス
  • 振動型アンビグラム
  • 眺墨賞の目的の体現

綻びと金のデザイン

眺墨賞のロゴは,輪郭が綻んだように歪んでいる金色のデザインです.初州が眺墨賞のロゴとしてこのデザインを採用することで,眺墨賞の権威性と責任性を表現しようとしています.このデザインは印影のようでもありますが,印影を権威と責任を象徴するアイコンとしてモチーフに選んだのです.

第10回受賞作 ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド

第10回の眺墨賞では「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」を取り上げました.このデザインは印影ではありませんが,雰囲気としては少し眺墨賞のデザインと共通する点があります.素朴ながらリッチな印象の金色と,長い時間の経過を連想させる輪郭の綻びです.ブレスオブザワイルドのロゴで使用されたこの2つのテクニック「金色の正統感」と「綻びが醸す伝統性と権威性」を眺墨賞のロゴにも取り入れました.

九畳篆のエッセンス

綻んだ金色のデザインとして様々な意匠を候補にすることができますが,描かれる模様にも伝統的で権威的な雰囲気を持たせたいと考えました.2018年4月の第18回 眺墨賞の受賞対象は「九畳篆」という漢字の書体をモチーフとしたデザインでした.九畳篆は,漢字が正方形を埋め尽くすように画が複雑に折り畳まれているデザインです.

第18回受賞作 京都 瓢喜

九畳篆も歴史の深い書体デザインです.第9回 眺墨賞にも書きましたが,九畳篆は10世紀から13世紀の間に発明されただろうと言われています.そのような歴史的に用いられてきた九畳篆の意匠にインスパイアされたデザインは,眺墨賞のロゴに採用するのにふさわしいと考えました.

振動型アンビグラム

この眺墨賞の新しいロゴは「眺」と「墨」の両方の字を含むように設計されている点も重要です.極めて対称性の高いデザインに仕上げられている (上下対称かつ左右対称ですね) ため,含まれた2つの漢字が読みやすいとは言えませんが,確かにこのデザインの中には2つの漢字が隠されています.

隠された「眺」と「墨」の字

このデザイン手法は,第1回 眺墨賞の「金属王」にも見ることができます.第1回の眺墨賞で取り上げたロゴデザインはまさに,1つのデザインが3つの漢字を包含したような大変技巧的なロゴでした.この1つのデザインの中に「金」「属」「王」の3つの字が重ねて表現されているのは大変面白く,参考にすべきデザインアイデアだと感じました.

第1回受賞作 金属王

眺墨賞の目的の体現

ここまでに説明したとおり,新しく完成した眺墨賞のロゴはこれまでの眺墨賞の受賞デザインから着想を得たものとなっています.「パクリですか?」と言われてしまうと厳しいのですが,しかしこれこそがまさにすみながめが眺墨賞を表彰する理由でもあります.

「眺墨賞の目的は何か?」ということについて,眺墨賞の記事内で言及したことはありませんでした.実はすみながめ 2018年行動目標という記事の中で,眺墨賞の目的を説明していました.

グラフィックデザインのセンスを向上する近道の一つは,既存のデザインを模倣することです.しかし,ただ模倣するだけでは不十分です.確実にスキルを向上させるためには,模倣しようとするデザインの何がエッセンスなのかを丁寧に汲み取る必要があります.そしてその分析作業は必ずしも短時間では完了できません.

すみながめは眺墨賞を表彰する活動を通じて,デザインのエッセンスを簡単にインプットする機会を視聴者・読者に提供したいと思っています.眺墨賞の表彰ではデザインの要素を詳細に解説するので,読者がスキルの向上を望めるコンテンツになっています.

すみながめ 2018年行動目標 – すみながめ

眺墨賞のロゴデザインがこれまでの眺墨賞の受賞作からヒントを得ていることは,まさに眺墨賞の目的に適っています.眺墨賞の読者の方にグラフィックデザインの重要なエッセンスを届けたいとするならば,まずは自分自身が率先してエッセンスの応用方法を示すことが重要だと思ったのです.

最後に

眺墨賞は2016年11月に始まり,2019年2月までに実に28ヶ月もの間ロゴを持っていませんでした.しかし2019年4月のすみながめリブランディングの一環としてこのタイミングでロゴを整備するのが適切だろうと思い,今回の制作に至りました.ぜひ今後もより一層,眺墨賞のコンテンツを楽しんでいただければと期待しています.

おまけとして,没デザインを1つ公開して終わることにしましょう.これは,ひらがなの「ち」と「よ」を合成して上下をひっくり返したデザインです (そして,受賞者の胸に飾るメダルとリボンのようでもあります).「ち」と「よ」はもちろん眺墨賞の始めの2文字ですね.

これはボツ案です…

しかし,完成したロゴと比べると稚拙でまだ未完成な印象があります.さらに何より,ここまでに書いたような「眺墨賞の意図の体現」という重要なエッセンスが全く含まれていません.そのためこれは不採用となりました.

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