【眺墨賞】みのミュージック #039
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第39回となる2020年1月の受賞はみのミュージックです.みのミュージックは,みの氏が運営するYouTubeチャンネルです.同氏は2017年からミノタウロスの名義で音楽活動をしており,みのミュージックのチャンネルにはミノタウロスがリリースする楽曲のミュージックビデオも掲載されています.

書体デザインが特徴的
初州がロゴを見て,まず連想したのは The Beatles の Rubber Soul のアルバムでした.初州は Beatles が好きなので Rubber Soul のアルバムを,タイトルの由来を含めて気に入っているのですぐに連想したのかもしれません.
アルバム・タイトルは本場のブルースマンがローリング・ストーンズを揶揄した「プラスティック(まがい物の)・ソウル」という言葉から、ポール・マッカートニーが考案したもの
ラバー・ソウル – Wikipedia

みのミュージックのロゴの字体は,Charls Front 氏による Rubber Soul のロゴのデザインのように膨れたり歪んだりしています.みの氏はロックに造詣が深い人物のため,もしかすると本当の元ネタは Rubber Soul ではない別のロックミュージックのアルバムアートワークかも知れませんが,初州にはこれが元ネタのように思えました.
「の」の字のデザインが渦巻きのように大胆にアレンジされている点も面白いですね.第31回 眺墨賞 みんなのAI でも取り上げた「の」と同じく,ひらがなの「の」の形はシンプルかつ面白いので,タイポグラフィでは個性が出やすい文字かもしれません.

字の形が面白い/可愛いという理由から,「の」の字は日本語を使わない台湾や香港でもロゴに取り入れらることがあります.上に載せた写真は初州が実際に香港で撮った写真です.
ウルトラセブンのマーブル柄
1967年10月から1968年9月までの1年間に放送されたウルトラセブンは,2020年の現在でもたくさんのファンを抱える名作です.ウルトラセブンのオープニングでは,水に溶いた絵の具をかき混ぜて逆再生したような,画期的な映像効果を採用していました.
冒頭の部分だけを切り出したGIFアニメも掲載しましょう.

さて,なぜ突然ウルトラセブンの話をしたのか,勘のいい読者はお気づきかもしれません.みのミュージックのロゴアニメーションは,ウルトラセブンのマーブルアニメーションとそっくりなのです!下の動画で,ロゴがどのように使われているのかご覧ください!
みの氏は音楽のジャンルとしてはレトロな「ロック」が好きで詳しい方なわけですが,ロックと同じように映像においてもレトロな演出が好みなのかもしれません.ウルトラセブンが放送された1967 – 1968年という時代と,Beatles の活動期間 (1963 – 1970年) は,奇遇にもよく符合しています.

名作のオマージュという個性
みのミュージックのロゴは,過去の名作のオマージュという手法を通じて強く個性を打ち出しています.The Beatles の Rubber Soul とウルトラセブンです.どちらも1960年代を連想するモチーフに統一されているところに,みの氏の趣味や嗜好が現れていますね.初州はこの点に強く感銘を受けました.
この世に,他の何とも似ていない完全なるオリジナルのクリエイティブというものは存在しません.どんなに新しいものであっても,必ず過去の何かと共通点を持ってしまうものです.そうであるからこそ,過去の名作のオマージュはそのクリエイターの個性となりうるのです.実際にすみながめも,過去の名作のオマージュから着想を得たInkcsapeチュートリアルを制作しています.

過去の名作のモチーフを積極的に取り入れ,その上で独自の路線を打ち出しているみのミュージックのロゴもまた創造的であると言えるでしょう.『ツギハギ漂流作家』という漫画の名セリフ『何が好きかで自分を語れよ!』にもあるように,みのミュージックのロゴは自身のチャンネルの方向性を体現した巧みなロゴだと思います.
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