【眺墨賞】離れていても心はひとつ #043
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第43回となる2020年5月の受賞は「離れていても心はひとつ」です (本家サイトに画像がないため,奈良新聞のサイトのリンクを掲載します).「離れていても心はひとつ」は2020年5月6日に岐阜新聞で行われた「Stay Home with newspaper」という特集で,コロナウイルスの感染拡大防止のためのソーシャルディスタンシング (お互いに 2m 以上の距離を取りましょうという感染対策) を受けてのデザインです.

このアートワークは岐阜新聞社の営業局 営業部に所属する蜂谷優太氏の作品です.2020年4月に政府より発出された緊急事態宣言を受け,同社で「Stay Home with newspaper」というテーマで5月1日から6日まで連続で掲載された企画紙面の1つにこのアートワークが掲載されると,Twitter などのソーシャルメディアでまたたく間に話題となり,同社の新聞を購読していない初州を含め,多くの人が知ることとなった作品です.

何が描かれているのか
このデザインは近くで見ると何が描かれているのか分かりづらいのですが,何やら黒地の背景を複数の白い円がくり抜いているようなデザインとなっています.円が複数並んでいるため,全体として何らかの形になっていそうですが,それは遠くからぼんやりと眺めることで分かるような設計になっています.円でくり抜かれた部分が文字となり,しかもぼんやりと見ることで初めて内容が分かるという大変技巧的な作品です.
2020年5月はコロナウイルスの感染拡大を受け,政府が緊急事態宣言を発出した時期でした.感染拡大のために不要不急の外出を行わず,さらに対面する際にもお互いの接近を控える (ソーシャルディスタンスを確保する) ように求められていました.親しい人と会うことが難しくなり,また会ったとしても空間を開ける必要がある中でも,このアートワークが提示してみせた「離れていて初めて見えてくる」という仕掛けは社会情勢を巧みに切り取り反映した仕上がりになっています.
離れることで,逆によく見える
近づくと読み取りにくく,離れて見ることで何が書かれているのか分かりやすくなるアートの例として,ドット絵 (ピクセルアート) がその代表になるでしょう.面白い例は枚挙に暇がありませんが,先日初州が Twitter で見かけた例を掲載してみましょう.
ドット絵も近くで見るとあまり鮮明ではなく,遠くから見ることで逆に詳細がハッキリと見えるという不思議な性質を持っています.初州もこれを確かめるために,上記のツイートに掲載されたドット絵を模写してみました.

このドット絵は SNK の対戦格闘ゲーム『ザ・キング・オブ・ファイターズ』に登場する草薙京という人物のドット絵です (引用したツイートへのリプライでは The King of Fighters 2002: Unlimited Match でのドット絵ではないかと推定されていました).この状態でも顔であることが読み取れますが,表情や目線の向きなどはいまいち判然としません.しかしこのドット絵を引きで見ると,様子が変わります!

小さくすることで見る者の「想像する力」が働き,描かれなかった詳細が浮かび上がってくるのです.これはある種の錯視ではあるのですが,脳の視覚に対する鋭敏さや補完性能には驚くべきものがありますね.