【眺墨賞】ミラキュラス #038
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第38回となる2019年12月の受賞はミラキュラスのロゴとアイコンです.ミラキュラスはフランス・韓国・日本の共同制作による3D CGテレビアニメで,日本での放送スケジュールは Disney チャンネルのページから確認できます.フランス・アメリカではすでに,2015年に第1シーズン (全26話),2017年から第2シーズン (全27話),2019年から第3シーズン (全53話) が放送されているようです。

ミラキュラスの主人公マリネットは,てんとう虫のような妖精ティッキーの力を借りて,スーパーヒロイン・レディバグに変身することができます.

シンプルで明快なアイコン
初州が優れていると感じたデザインは,マリネットがレディバグに変身する際に使うピアス (?) に描かれたてんとう虫のアイコンです.上掲の公式Twitterでも採用されているこのアイコンは,ひと目で「レディバグだ」と分かるものになっていますね.

左右対称・上下対称なこのアイコンは,要素を最小限に削ぎ落としたミニマルなデザインでありながら,てんとう虫のモチーフを損なっていません.最小限の要素で最大限の意味を表現することに成功しているこのデザインは,ヒロインのレディバグを象徴するのにふさわしく,とてもカッコイイものに仕上がっていると初州は感じました.
モチーフを美しくまとめるには対称性や,幾何学的な単純性が重要です.幾何学的に単純でない図形が素晴らしい印象を与えることもありますが,図形的にシンプルにまとめられたアイコンやロゴが与える印象には素晴らしいものがあります.
アイコンの進化は,単純化
スーパーヒーローのアイコンとして思い出すのは,スパイダーマンのアイコンです.スパイダーマンのアイコンは歴史を通して変化していますが,例えば1962年のデビュー当時のアイコンと,2018年の映画『スパイダーマン: スパイダーバース』のアイコンを比べてみましょう.

この2つの違いはたくさんありますが,その1つは図形的シンプルさではないでしょうか.2018年のロゴにはスプレーで描かれたような乱れこそあるものの,デザインの本質的な骨格はシンプルです.グラフィティ風の乱れを除けばデザインは図形的に端的にまとめ上げられており,シンプルな力強さゆえの迫力があります.反対に左側の1962年版のアイコンは,かなり弱々しく見えるでしょう.
第19回 眺墨賞でも言及したように,アイコンが進化するとき,多くの場合には「単純化」の道を辿ります.ミラキュラスのアイコンは単純な形に洗練されていて,すでに「進化したデザイン」といった印象ですね.最小限の要素で最大の意味を表現できているアイコンは美しく,ヒロイン・レディバグの力強さを感じさせますね.
凝ったロゴのローカライズ
ミラキュラスのタイトロゴは,英語版 (アルファベット版) と日本語版が存在しています.このロゴのローカライズも素晴らしい仕事なので紹介しましょう.
元々はフランスで放送されたアニメーションであることを考えると,アルファベット版のロゴが原版でしょう.そう考えると,日本語版タイトルロゴは大変丁寧にローカライズされていることが見て取れます.

例えば「ミ」の字は,オリジナルに含まれる「m」の字のニュアンスをよく汲み取ったデザインになっています.また末尾の「ス」にある長い左払いは,オリジナルの「s」にあるものと同じ形状になっていて,忠実にオリジナルのロゴを「翻訳」しています.
さらにサブタイトルの「レディバグ & シャノワール」の部分のデザインも秀逸です.オリジナル版で使用されているフォント Lobster の特徴的な装飾を巧みにコピーしています.Lobster フォントにはカタカナは含まれていないので,このロゴのために制作されたロゴタイプでしょう.

丁寧な制作による最大の成果
ミラキュラスのアイコンは極めてミニマルな中にレディバグの要素を最大限に表現した,秀逸なデザインになっています.さらに日本語版タイトルロゴがオリジナルの要素に忠実にローカライズされていることも印象的です.
眺墨賞では繰り返し,デザインのシンプルさ野重要性,幾何学に従うことの重要性を強調してきました.ミラキュラスのアイコンの高い完成度は,これのらセオリーに従ったデザインが成功している顕著な例だと言えるでしょう.活発で勇敢なヒロインを象徴するものとして,ぴったりなアイコンです.