【眺墨賞】IBM #044
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第44回となる2020年6月の受賞は IBM です.IBM は International Business Machine の頭文字を取って命名された1991年創業の IT/ソフトウェア企業です.IBM のロゴは the 8-bar と呼ばれる8本の線で構成された,印象的なロゴです.IBM のロゴにはいくつかのカラーバリエーションがありますが,「ビッグ・ブルー」の愛称の通り青色で書かれることが多いでしょう.

ポジティブとネガティブで異なる線幅
8-Bar についての公式のドキュメントには,IBM ロゴの使い方に関するたくさんの情報が掲載されています.例えば上にも掲載した 8-bar のロゴの,線自体の幅と,線と線の間の幅は実は異なっています.線の幅を11とすると,線と線の間の幅は実は10と,少しだけ狭く設計されているのです.この理由を IBM は「人間が目で見て同じ幅に見えるための視覚調整だ」と書いています.

IBM の 8-Bar ロゴは暗い背景の上での使用も公式に許可されており,その際の使用方法についても詳細に規定されています.驚いたことに,反転ロゴ (暗い背景の上に載せるために,線の部分が明るい色で書かれたもの) の「線の幅」と「線と線の間の幅」は,通常のロゴとは異なるのです.

通常時のロゴと異なり,横線幅が10,線と線の間が11となるような指定がなされています.このような丁寧な視覚補正に関する話題は過去の第14回 眺墨賞「Nintendo Switch」でも取り扱いました.こうした企業ロゴが丁寧な検証の積み重ねの上で制作されていることが垣間見れる瞬間だと初州は感じます.
線幅だけじゃない!形すら違う 8-Bar
しかしネガポジを反転したときのロゴの扱いについては,もっと面白いの事実が隠されています.なんと IBM の 8-Bar ロゴは,ネガポジを反転させるとき (つまり線が明るい色のときと暗い色のとき) では少しだけ異なるロゴを使用することを定めているのです!下の画像を見てみてください.

明るい背景の上に使う黒線のロゴ (こちらを便宜的に表バージョンと呼びましょう) では M の中央の折れ目で線がぎりぎり繋がっています.しかし反対に.裏バージョン (暗い背景の上に使う白線のロゴ) では M の中央の折れ目で線がぎりぎり繋がっていません!この理由を IBM は次のように説明しています.例に漏れず,これも視覚補正なのです.
The positive being a sharp and the reversed more blunt. This subtle difference between the two ensures optical integrity on light or dark backgrounds.
IBM Design Language – 8-Bar
日本語で書くと次のような感じでしょう.
正バージョンは鋭く、逆バージョンは鈍くなっています。この2つの微妙な違いにより、明るい背景でも暗い背景でも光学的な整合性を確保しています。
IBM Design Language – 8-Bar
表バージョンと裏バージョンで形まで変えてしまっているのは大変めずらしい例であると,初州は感心したのでした.
なぜこれを知った?
初州がこのことを知ったのは,自分で IBM のロゴガイドラインを見ていたからではありません.株式会社三階ラボ 取締役デザイナーの宮澤聖二氏のツイートを拝見して,IBM のロゴの秘密を知ったのでした.
デザイナーはアンテナが大変高い方が多いですが,それは自身のデザインの引き出しを増やすためです.すみながめの読者がこの眺墨賞を読みデザインの見聞を広げていることも,あなたのデザイナーとしての引き出しを増やすことに繋がっていますね.