【眺墨賞】Nintendo Switch #014
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第14回となる2017年12月の受賞は,2017年3月3日に発売された任天堂の最新コンシューマゲーム機『Nintendo Switch』のロゴです.Switchは従来的な「据え置き型ゲーム機」と「携帯型ゲーム機」の両方の性質を兼ね備えた新しい発想のゲーム機です.

Switchの特徴
Switchのブランドは,本体の着脱可能なコントローラーを模したロゴを採用しています.下の画像はSwitch本体とコントローラーです.右側のコントローラーを見ると分かるように,コントローラーの一部 (ボタンやスティックのある部分全体) が取り外し可能です.

そして標準で同梱される液晶画面にコントローラーの操作系部分を取り付けることができます.この着脱可能性によって,上の画像の使い方では据え置き機のように,下の画像の使い方では携帯機のようにゲームを楽しむことができます.

様々に遊び方があることを端的に表現している画像が公式ウェブサイトにあるので,これを参照するのがいいかもしれません.

非対称なロゴ
発売に先立って,2017年1月6日にアーティストの David Hellman 氏はNintendo Switchのロゴに隠されたデザインの秘密を発見し,自身のTwitterでそれについて言及しています.

(抄訳) Switchのロゴが左右非対称なのに気付いてましたか?それぞれの側が異なる視覚的重みを持っていて,目がロゴの釣り合いを生み出しているのです.
実際には左半分のイラストのほうが,右半分のイラストよりも大きく書かれているのです.しかし右半分は塗り潰しがされているため視覚的には広がりを持っているように見えるため,目の錯覚によって2つの大きさが揃っているように見えるのです.
David Hellman氏はさらに左右の幅を均等にしたバージョンのSwitchロゴを作成して,その違和感を指摘しています.下の画像の右半分と左半分は同じ幅で作成されています.同じ幅に見えるでしょうか?

上の画像の右半分と左半分は同じ幅で作成されているのですが,視覚的には右半分のほうが大きく見えてしまうのではないでしょうか.それを補正するために,任天堂が使用しているロゴでは右半分を小さく,左半分を大きく書いて,目が知覚する大きさを揃えているのです.
視覚補正とは?
こういった人間の視覚の特性を考慮して,デザインを単純な幾何学図形から少しだけずらして補正を行うことを「視覚補正」といいます.目の錯覚とデザインの関係は切っても切れないためこの例は無数にありますが,ここではGoogleのロゴを例に取りましょう.


Googleのロゴの「G」にも適切な視覚補正が施されています.視覚補正を行わない,ただの円をGの形に切り出すと,折れた箇所が右側に飛び出しすぎているように見えます.これを補正するためにGoogleのロゴのGは真円から少しだけずらされているのです.詳しくはGoogleの公式発表を読むと参考になるかもしれません.少しだけ引用しましょう.
Designed on the same grid as our product iconography, the circular shape was optically refined to prevent a visual “overbite” at the point where the circular form meets the crossbar.
Evolving the Google Identity – Library – Google Design
錯視とデザインについては,#27の解説記事でも述べられています.人間の視覚特性をよく把握し,適切な視覚補正を行うことは,素晴らしいデザインを行うために欠かせない重要な要素です.Switchのロゴには,まさに適切な視覚補正が施されており,それは「気付かないほど」巧妙であるのです.
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