【眺墨賞】金属王 #001
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.
第1回となる2016年11月の受賞は「金属王」のロゴです.非常に洗練され,簡潔でありながら多義的であります.

これがその受賞作品です.作者はエナミケンジ氏 (from IMAGE GATE) .製作時期について詳しいことは不明ですが,おそらく2010年から2012年の間ではないかと思われます.作者のエナミケンジ氏は2009年に白というデザインオフィスを設立しました.
「洗練され,簡潔である」というのは見て分かるところでしょう.しかし「ただ簡潔」であることが素晴らしければ,全てのロゴは円で十分だということになってしまいかねません.「金属王」のロゴは簡潔でありながら,「多義的」であり,その点で素晴らしい作品です.

この画像はすみながめが独自に「金属王」のロゴを模倣し,そのイラストに色を塗ったものです.「金属王」のロゴは,単体で3つの漢字を表すことに成功しています.「金」と「属」と「王」です.このように1つの図形が複数の意味を持つ (通常,複数の文字に読める) ように設計されたデザインを「アンビグラム」と呼びますが,「金属王」のロゴはまさにアンビグラム的にデザインされたものです.
一口にアンビグラムと言いましてもいろいろと種類がありまして、igatoxinさんの使われている用語を借りると、
inversion 180度ひっくり返しても同じ文字列になる
mirror 鏡に映しても同じ文字列になる
symbiotic 視点を変えると違う文字列になる
oscillation 視点は同じままで、読みようによって違う文字列に見える
NegaPosi 地と背景がそれぞれ違う文字列になってる
などなど。
ambigram – 罅ワレ回文
「金属王」のロゴは,上記の分類に従うと「oscillation (振動) 型」と分類される種類のアンビグラムです.1つの図形が,視点を同じにしたまま (つまり鏡に映したり,180度回転させたりしないで) 異なる文字に見えます.非常に匠に設計されたロゴです.
上記分類は一例であり,別の分類を提唱している人もいます.例えば アンビグラムというサイトでは,以下のような分類が提唱されています.
Rotational 180度、90度、45度など回転させたアンビグラムのこと。回転させると違う読み方になるタイプと、同じ読みになるタイプがあります
Mirror 鏡に写したように反対に見える「鏡文字」のこと。垂直軸線対称と水平軸線対称、あるいは斜め軸線対称のものもあります。これも違う読み方になるタイプと、同じ読みになるタイプがあります。
Figure-ground 文字と文字の間の空白部分(背景)が別の文字に読めるタイプです。
Perceptual shift 文字の曲線や形の解釈の仕方によって2つ(2つ以上の場合もある)の異なる文字や語に読むことができるタイプ。
Chain 文字や語を繰り返し並べて、途中からも読めるタイプ。
Fractal いわゆるフラクタル(自己相似)で、図形の一部分と全体の形が相似になっているタイプ。
などなど。
アンビグラム
奥深いアンビグラムの世界と奥深いロゴデザインの世界が交わった,非常に興味深い作品として,「金属王」のロゴは際立っています.
“【眺墨賞】金属王 #001” への2件の返信