【眺墨賞】ノイタミナ #032
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第32回となる2019年6月の受賞は,ノイタミナです.ノイタミナは2005年4月に設立されたフジテレビの深夜アニメ枠です.少し捉えどころがない感じもしますが,特定のアニメ作品を指しているのではなく,あくまでも放送の「枠」に与えられている名称です.例えばノイタミナの枠で放送されたアニメ作品として,『ハチミツとクローバー』や『のだめカンタービレ』があります.

ノイタミナのロゴは解像度の低いドット調で描かれています.1文字は16×16の正方形の中に描かれています.白黒1 bitの256ドット = 16×16 ということで,とても計算機に扱いやすそうな形ですね.

全体をトレースしてみるとこんな感じです.16×16の文字同士はそれぞれ1pxずつ離れているので,全体としては横 86px = 16×5+6,縦 18px = 16+2の大きさとなっています.

ノイタミナのロゴは大変個性的なデザインですが,初州が想像するに,このデザインの発想の源泉はMNISTというデータセットに由来すると思います.MNISTは機械学習のための学習データセットの代表的なものの1つで,手書きの数字の画像を大量に集めています.

MNISTに収録されている手書き数字画像は28x28pxで,ノイタミナのロゴよりも少し高解像度になっています.またピクセルも白黒2階調ではなく,白から黒まで256階調で表現されています.こうした微妙な違いこそありますが,とてもノイタミナのロゴのデザインと似ていることが分かるかと思います.初州はこの類似性から「ノイタミナのロゴのデザイナーは,機械学習にも興味があったのかな?」などと想像しています.
ノイタミナのロゴのテイストと同じようにデザインされたカタカナは,50音全て (83グリフ) が用意されています.これがきちんとコンピュータ上で使えるフォントデータとして作られているのか,画像データだけしか存在していないのかは不明ですが,このようにドットで構成されたフォントはビットマップフォントと呼ばれます.

近年のドット絵グラフィックの流行に合わせて,ビットマップフォントも人気を集めています.例えば初代のポケモン赤緑で使用されたビットマップフォントを模したフォントなどがあります.実際にはTrueTypeフォント形式になっていますが,見た目はビットマップフォントそのものですね.

こうした低解像度のデザインもとても味わい深いですね.YouTubeでlo-fi hip hopが流行しているのと同じように,グラフィックデザインの選択肢にlo-defのテクニックを取り入れてみると面白いでしょう.