【眺墨賞】ザ・おめでたズ #040
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第40回となる2020年2月の受賞はザ・おめでたズです.ザ・おめでたズはメンバー全員が大学在学中だった2011年に結成されたラップバンドで,いろいろな日本の記念日に関する楽曲を制作しています.メンバーは6名で,グラフィックデザイナーやイラストレーター,トラックメイカー、アパレルデザイナー、映像作家などからなるクリエイター集団でもあります.

初州はザ・おめでたズのロゴを,偶然街で見かけたステッカーで知りました.通りすがった人のスマホに貼ってあったのです.そしてひと目見て「これは良いロゴだなぁ.何のロゴなんだろう?」と思って調べ,ザ・おめでたズを知ることになりました.
このロゴを見て,初州はコカコーラのロゴに似ているなと感じました.そしてコカコーラのロゴに似て,普遍性とアレンジ可能性を併せ持ったロゴになっていると感じました.
普遍性のある強いアイデンティティ
コカコーラはペプシコーラと並ぶ2大コーラの会社ですが,ロゴについて見てみると実はコカコーラとペプシコーラは大きく違う点があります.それは,ロゴのリブランディング回数の違いです.
ペプシのロゴは何度も大幅な変化を繰り返しています.1898年の最初は赤い筆記体風のテキストロゴだったものに1950年には赤と青のモチーフが追加され,その後1962年にフォントをサンセリフのものに変更した後,1998年にはテーマカラーを赤から青に大胆にシフトし,さらに2008年にはロゴの波形の変更とテキストスタイルの変更を行っています.時代に合わせてブランド形成のために試行錯誤している形跡がよく見て取れます.

一方のコカコーラのロゴはどうでしょうか.1886年と1985年に単発的に違うロゴが使用された例があるにしても,ほとんどすべての時代を通じて同じロゴを使用し続けています.このロゴの躍動感やシズルはコカコーラのブランドの中核をなしており,時代を超えて魅力を訴求するものになっています.ザ・おめでたズのロゴにもこれに似た普遍性を感じることができました.
大胆なアレンジ可能性
時代を通じて変わらないことは一見すると良いことのように聞こえがちですが,いい面ばかりではありません.デザインはあっという間に陳腐化してしまうため,飽きられてしまわないためには継続的な新鮮さも重要です.コカコーラのロゴはその問題を華麗に解決しています.
初州の知っている大胆なロゴのアレンジの1つは,オーストラリア,シドニーにある Kings Cross という区域に掲示された大型のビルボードです.Kings Cross はリベラルな雰囲気で知られる区域で,LGBTQ+ のコミュニティのホームタウンをなっています.そんな Kings Cross でこんなビルボードが掲示されました.

King を Queen に反転した点もさることながら,厚塗りの口紅の跡,真紅の華美なファーのショール,Welcome の文字列に配置された虹色のハートマークは,ドラァグクイーンや他のLGBTQ+のシンボルを思わせる表現で,King Cross 区域の多様性への歓迎をよく表しています.
一方でこのアートワークはひと目見てコカコーラのキャンペーンの看板であることが分かるようにもなっています.Queens
の Q
の長い尻尾や Cross
の C
の書き出しの丸まりはコカコーラのロゴに共通するデザインの特徴ですし,テキストの下に書かれた波もロゴに存在するものを思わせます.
このようにコカコーラのロゴは,時代を超えて普遍的に愛されながら,しかし場面やキャンペーンに合わせて柔軟にアレンジされることで新鮮さを失わずに飽きられないアイデンティティを維持しているのです.
ザ・おめでたズのロゴの面白さ
ザ・おめでたズのロゴはこれまでに見てきたようなコカコーラのロゴに似て,普遍的に通じる魅力と大胆なアレジン可能性を併せ持つような楽しいロゴになっていると感じました.またひらがな/カタカナで書かれたロゴというのも初州の好みに合っていたのでした.ひらがな/カタカナのロゴの面白さについてはこれまでの眺墨賞でも語りましたね (例えば第22回 眺墨賞 レペゼン地球など) .
2020年2月3日にはザ・おめでたズは新曲『Skylight』のミュージックビデオをYouTubeで公開しました.同日2月3日はエスエス製薬が後援している睡眠改善委員会が「不眠の日」としている日であり,同曲は「眠れぬ夜」をテーマにしたチルなヒップホップになっています.ぜひ聞いてみてください.