眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

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第5回となる2017年3月の受賞は「ゲエズ文字」です.今回の受賞対象は特定のデザインではなく,文字体系全体が対象です.これは私がエチオピアを訪問した際に初めて見てその存在を知り,字形の美しさに感動したことがきっかけです.

ゲエズ

エチオピアの文化に親しんでいれば常識かもしれませんが,ゲエズ文字の概要について知っていることがあまり多くない人もいると思います.Wikipediaから簡単な概要を引用しましょう.

ゲエズ文字は、かつてゲエズ語を表記するために生み出され、現在はアムハラ語、ティグリニャ語、ティグレ語など、エチオピアやエリトリアの諸言語の表記に用いられる文字である。ゲーズ文字、アムハラ文字、エチオピア文字とも呼ばれる。サブサハラアフリカでは極めて古い歴史を持つ。

アブジャドである南アラビア文字から派生したアブギダであり、左から右へと書かれる。ひとつの文字がひとつの音節を表すことが多い。

エチオピア

基本的な子音が26文字あり,それの上・下・右などに記号を追加するとこによって母音を表現します.文字数がラテン・アルファベットと近いですが,大本の源流がエジプトのヒエログリフであることが関係しているかもしれません (詳しくないので想像で書いています.信用しないでください笑).

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文字のフォントを考えるとき,様々な意匠のフォントが各文字ごとに存在していますが,その中に「正統」の印象を与える意匠のものがあります.「正統」の印象を与えるフォントは,漢字や日本語であれば明朝体のような意匠のものだし,ラテン・アルファベットであればセリフフォント (ローマン体) がそれに当ります.正統な印象を与えるフォントはその権威と可読性から,多くの場面で標準的に用いられるフォントとなっていることが多いでしょう.

正統

これらのフォントが正統な印象を与えるのは,その文字圏で使用されてきた伝統的な筆記具の字形に近いことが理由の1つではないかと思います.明朝体の漢字に特徴的な「ウロコ」は筆で漢字を書く際に発生する墨溜まりや筆押さえを意図しています.

明朝体のデザインのルーツは、筆で描いた文字

またアルファベットのローマン体のセリフの由来も,伝統的な文字の筆記法に関わっています.以下では2つの由来を挙げて説明されています.

the Roman letter outlines were first painted onto stone, and the stone carvers followed the brush marks, which flared at stroke ends and corners, creating serifs. Another theory is that serifs were devised to neaten the ends of lines as they were chiseled into stone.

(抄訳)
ローマン体は初めに石の上に筆で描かれ,端点と湾曲部で広がっているその筆跡に従って石彫屋が彫った結果としてセリフが生まれた.もう1つの説は,線の端点に溜まる石の削りかすを綺麗にするために彫られたというもの.

【出典】 Serif – Wikipedia

これらの例から考えて,「ある字体がが正統な印象を持つ根拠は,その文字圏で使用されてきた伝統的な筆記の字形に近いから」という仮説は妥当そうに思えます.この仮説に基づいて,エチオピアで用いられるゲエズ文字の標準的なフォントを見てみましょう.

シートベルト

この字形を観察すると,どうやらゲエズ文字では伝統的にカリグラフィペンのような,幅広の筆記具が使用されてきたのではないかという推測が立ちます.縦線や左上から右下への斜め線は典型的に太く,横線や右上から左下への斜め線は典型的に細く書かれています.このようなコントラストのある筆記を実現するための筆記用具は幅広のペンです.

カリグラフィ

標準的な文字フォントの字形を観察すると,その国あるいは文字圏の伝統的な筆記具に関する考察ができます.私は外国語の文字 (特に読み方がさっぱり分からないもの) を見るのが好きなのですが,その理由の1つとして,このような楽しみ方を持っているからかもしれません.

エチオピア空港

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