【眺墨賞】Abricotine #015
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第15回となる2018年1月の受賞は,オープンソースソフトウェアの「Abricotine」です.正確にはそのロゴデザインを表彰するものですが,ソフトウェアとしての使い勝手のよさを総合して高く評価します.Abricotineはシンプルなマークダウンエディタです.

マークダウン記法
マークダウン記法に慣れていない人もいるかもしれませんので説明しましょう.マークダウン記法とは文書を記述するための簡潔な記法です.例えば文書に見出しを付けるとき,HTMLとマークダウンのそれぞれの書き方を比べてみましょう.
<h1>これは HTML の見出し</h1>
# これは Markdown の見出し
このようにタイプの数が減るので,それだけ記入が楽になるのです.他にも簡潔で文書の構造を表現するためのマークダウン記法があります.以下に書くのはその例です.
順序なし箇条書き
* これは * 順序なしの * 箇条書き
- これは
- 順序なしの
- 箇条書き
引用
> 不等号を > 行頭に書いて > 引用を示す
不等号を
行頭に書いて
引用を示す
強調
*イタリック* **太字** ~~打ち消し~~
イタリック
太字打ち消し
数式
厳密にはマークダウンとは無関係ですが,Abricotineで記述可能です.
$\displaystyle \int^{\vec{x}_1}_{\vec{x}_0}\vec{F} \cdot d\vec{x}=\frac{1}{2}m\left.\left(\frac{d\vec{x}}{dt}\right)^2\right|_{t=t_1}-\frac{1}{2}m\left.\left(\frac{d\vec{x}}{dt}\right)^2\right|_{t=t_0}$
\( \displaystyle \int^{\vec{x}_1}_{\vec{x}_0}\vec{F} \cdot d\vec{x}=\frac{1}{2}m\left.\left(\frac{d\vec{x}}{dt}\right)^2\right|_{t=t_1}-\frac{1}{2}m\left.\left(\frac{d\vec{x}}{dt}\right)^2\right|_{t=t_0} \)
エディタとプレビューを分割しないのが素晴らしい
マークダウンは大変便利な記法でありながら,視覚的に入力結果を確認しながら編集するのが面倒でありました.例えば次のように書けば,それは見出しを意味しますが,しかしエディタ上では見出しのようには表示されません.
# 見出し
マークダウンで見出し化した部分,リンク化した部分,数式部分などのプレビューは,エディタの隣に用意されたプレビュー用のペインに表示されるのがマークダウンエディタでは普通でした.

上の画像は最も人気のあるエディタの一つである Atom (GitHub社開発) でマークダウンを記述したスクリーンショットの例です.マークダウンを記述することができますが,プレビューは隣のペインに表示されていることが分かります.この煩雑なインターフェースは以下に列挙する15個すべてのマークダウンエディタで共通なものです.
- Atom
- Visual Studio Code
- Kobito
- MarkRight
- Haroopad
- Brackets
- Sublime Text
- Mou
- MacDown
- Chocolat
- MarkdownPad
- MarkDown#Editor
- Mery
- Markable.in
- Dillinger
Abricotineではこれが解決されています.それが分かるのが下の画像です.

Abricotineではプレビューとエディタが統合されているため,エディタペインとプレビューペインのようにUIが分割されません.視覚的に,より直感的に文書の編集が可能です.これがAbricotineの独自性であり,大変優れたポイントです.
OSSでやってくれた
私はオープンソースソフトウェア (OSS) を愛用しています.Inkscapeを利用していることは言うまでもなく,他にもGIMPやOpenshot,Audacity,FontForgeなどのソフトウェアを愛用していますし,パソコンのOSもUbuntuという自由でオープンなOSを使用しています.
オープンソースソフトウェアの特徴で分かりやすいものは「無償で使用できること」ですが,それだけに留まらない大きなメリットがあります.なぜOSS,特にFLOSSが素晴らしいのかをここでは詳細に述べませんが,AbricotineはGNU一般公衆ライセンスを採用しているためその精神を受け継いだソフトウェアです.

実はマークダウンエディタの中で,ペイン分割をせずにエディタ内でプレビューできるソフトウェアは存在しています.中でもUIが綺麗なソフトウェアがTyporaです.TyporaはAbricotineよりも高機能でありながら洗練されたUIを備え,機能的にも使い心地的にも少しだけAbricotineを上回っていると思います.一方でTyporaは自由なオープンソースソフトウェアではなく商用ライセンスを採用しており,ベータ版終了後は有償のソフトウェアとなります.
しかしAbricotineの強みは「オープンソースで自由なソフトウェアである」という点です.これは不特定多数の開発者がAbricotineのユーザーコミュニティを活性化出来ることを意味し,大変期待を持てる理由の一つです.
今回は機能的な側面に注目して,デザインの審美的観点からの言及が少なめでした.しかし大変機能的で便利なマークダウンエディタなため,今後も安定的に機能強化され,使いやすく格好いいエディタになると良いと願っています.