【眺墨賞】Heroku 花札 #037
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第37回となる2019年11月の受賞は Heroku 花札です.Heroku 花札は Heroku が2019年10月17日にその完成を発表した Heroku オリジナルの花札で,クラウド事業者の Heroku らしい独創的なデザインが特徴です.この花札は実際に印刷されて,Code[ish] (Heroku のポッドキャスト) のゲスト出演者にノベルティとして配布されたようです.初州も欲しい…!笑

※2019-12-05 追記※ なんと Heroku のご担当者からコンタクトをいただき,花札をお送りいただきました!詳細は記事末尾に追記しています!

今回の記事ではこの Heroku 花札のデザインの面白さを3つの項目に分けて解説しましょう.具体的には次の3つです.
- 王道を行く六角形のグリッドパターン
- 綿密に設計されたカラースキーム
- 細部に巧みに溶け込んだアクセント
デザイン制作を受託したのは2008年に創業した &yet 社 (アメリカ,ワシントン州) で,札の絵柄は同社の Lynn Fisher 氏によるデザインです.花札のような日本固有のカードゲームの絵柄を,アメリカのデザイナーが制作したことは興味深いですね.
王道の六角形のパターン
Heroku の花札では六角形のパターンが効果的に取り入れられています.眺墨賞では第20回 Shao Industries と 第36回 Bumble で六角形のデザインが秘める先進性などのニュアンスを解説してきました.今回も改めて,秀逸な六角形のデザインを見つけることができて,初州は個人的にとても感心しています.

Heroku はクラウドプラットフォーム事業者で,Amazon Web Service や Google Cloud Platform,Microsoft Azure などと並ぶサービスを提供しています.クラウドビジネスというIT産業の最先端にあって,「先進性」を象徴する六角形をデザインの基本に据えていることは,とても理に適っています.
綿密なカラースキーム

紫色は Heroku のメインカラーです.ブランドロゴの取扱について規定するページでは,#430098
が基本となる紫色 (violet) として指定されています.他にもグラデーション用に #211746
(indigo) を,暗い背景に重ねるときには #7673C0
(lavender) を使用するように指定されていて,色使いの統一にとても細やかな配慮がされていることが伺えます.

さらに,複数の色が必要になる場面 (クラウド管理画面のユーザーインターフェースなど) ではどのようなカラースキームに則るかについても詳しく説明されています.

Heroku 花札では,ここで指定されたカラースキームに完全に準拠しています.使用する色数を不用意に増やさないことには,世界観に統一感をもたらす良い効果があります.

もしかすると,実際に印刷する際に必要となるインク量を削減し,コストカットを実現する実利的な側面もあるかもしれませんね.

細部に潜むアクセント
六角形のグリッドに従い,既存のカラースキームに従い,Heroku 花札は厳しいデザイン的制約の下で制作されています.それでも独創性を失っていないもう1つの理由が,細部に散りばめられたアイコンのモチーフだと初州は想像します.細部に散りばめられた Heroku 独自のモチーフについて,主なものを4つ紹介しましょう.
- サービスを通して主にアプリを意味するアイコン
Deployment
のアイコン (天地が反転しています)Extending Heroku
のアイコンDynos
のアイコン

どれも Heroku のサービスのどこかで使用されているアイコンがアレンジされて札のデザインにあしらわれているのです.Heroku 花札の意匠は強い制約のもとで制作され,かなりシンプルに洗練されたデザインです.しかしその制約の中でも無個性にならず,きちんとアイデンティティを感じさせるデザイン手法はとても参考になる手法ですね.
まとめ
眺墨賞 第37回の受賞は Heroku 花札でした.歴史の深い意匠を現代的に,Heroku らしく再解釈してデザインを行った花札は実に魅力的なものです.

先進性を象徴する六角形のグリッドパターンに乗せたミニマルな組み立てで,固いカラースキームの制約にも準拠しています.その中に独創的なワンポイントのアクセントがそこここに散りばめられていました.
Heroku は以前に,オリジナルのトランプを制作しています.トランプのデザインは遅くとも2017年までには完成していたようで,制作を依頼されたのは花札と同じく &yet 社でした.

このトランプのデザインも十分に魅力的ですが,簡潔な幾何学的グリッドと厳格なカラースキームの制約を課されておらず,統一感や洗練度の点では Heroku 花札のほうに軍配があるでしょう.厳格な制約によってデザインの完成度を磨き上げながら,その中に個性の光る作品を作るコツを Heroku 花札から学ぶことができそうですね.
追記!実物をゲットしました!
眺墨賞の記事を執筆時点では想像もしていなかったのですが,Heroku のご担当者様からコンタクトをいただき,Heroku 花札の実物をお送りいただきました!

オンライン上の画像を見たのと同じ感動が,物理的に印刷されて出力された花札の実物からも感じることができました.また同時に靴下やステッカーなど,たくんさんの Heroku グッズまでいただきました!本当に嬉しいです😊 ご担当の方,ありがとうございました!

郵送のご提案を頂いたツイートは https://twitter.com/herokujp/status/1199505541824827392
だったのですが,2021年9月15日現在で Heroku JP さんの Twitter アカウント @herokujp
はアーカイブされてしまったようです.冒頭に掲載した画像は Web Archive に残った魚拓のスクショです.
ところで,すみながめでもオリジナルのカルタを制作して配布しています!その名を Tabashike カルタといい,Splatoon 風のイラストタッチを基本に,すみながめのオリジナルフォント Tabashike をあしらったデザインになっています.

すみながめ 実践者の会にて配布しておりますので,もしご興味のある方はご覧くださいね! Tabashike フォント自体は下のテキストエリアで試し打ちもできますので,ぜひ試してダウンロードしてください.