弧ツールを使ったゴシックな漢字タイポグラフィ #040

今回のチュートリアルでは,ゴシックな印象の漢字タイポグラフィを作成します.このタイポグラフィが華やかで楽しげな印象を与えるのには「形」と「色使い」の2つの要因がありますが,今回の解説では文字の「形」に注目してお話します.

この「苺」のタイポグラフィを見て特徴的なのは,ストロークの端点が二股に分岐していることです.これは bifurcated serif (発音は /bɪ́fɚkèɪtɪd/ .訳すなら「二股セリフ」でしょうか) と呼ばれるタイプのデザインです.bifurcated serif について説明している記事を引用しましょう.

Bifurcated serif –

This is when the serif on a typeface is split into two usually in a curved fashion differing hugely from simple sans serif typefaces with flat blocky ends. These kinds of fonts are quite celebratory and are reminiscent of circus-style, music hall and have an overall sense of light-heartedness.

Typography Terminology | Seb Summers

翻訳すると,このようになります.

二股セリフ –

二股セリフは、タイプフェイス上のセリフが、平らなブロック状の端を持つ単純なサンセリフの書体とは大きく違っていて、通常は湾曲した形で二股に分れて書かれるタイプの字体です。この種の字体はとても祝賀的な雰囲気で、サーカスあるいは音楽ホールを連想させ、全体的に快活で陽気な意味を持ちます。


Typography Terminology | Seb Summers

今回作成した「苺」の字は,まさにこの二股セリフを意図して作成されています.漢字に二股セリフを適用する大胆なデザインですが,動画の通り,作るのはとても簡単です.ぜひ作成を試してみてください!


さて,「bifurcated serif (二股セリフ)」の「セリフ」とは何でしょう?セリフとは,文字のストローク (漢字の場合は「画」と呼ぶほうが自然かも知れません) の端点に追加される装飾的な線のことです.Wikipediaでは次のように説明されています.

セリフ(英: Serif)とは、タイポグラフィにおいて文字のストロークの端にある小さな飾りを意味する。セリフを持つ書体をローマン体と呼ぶ。

セリフ (文字) – Wikipedia
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上の画像で,セリフフォント (ローマン体) は上の2つで,サンセリフフォントは下に書かれています.最上部のセリフフォントでは,セリフの部分を青で示しています.セリフの起源は,古代に石の上に彫られた文字の端に溜まった削りかすを掃き出すために作られた溝だと言われています.Wikipediaの文章を引用します.

Serifs originated in the Latin alphabet with inscriptional lettering—words carved into stone in Roman antiquity. The explanation proposed by Father Edward Catich in his 1968 book The Origin of the Serif is now broadly but not universally accepted:

– the Roman letter outlines were first painted onto stone, and the stone carvers followed the brush marks, which flared at stroke ends and corners, creating serifs.

– Another theory is that serifs were devised to neaten the ends of lines as they were chiseled into stone.

Serif – Wikipedia

簡単に日本語訳すると,このような感じです.

セリフは古代ローマで文字を石に彫り込んだ碑文のラテン・アルファベットに起源を持つ.Edward Catichによる1968年の本『The Origin of the Serif』で提示され,今では広く (しかし例外もある) 受け入れられている説明は:

– 初めにローマン体の輪郭が石の上に筆で書かれ,石彫屋がその筆跡に従って彫る.筆跡は端点に向かって広がっているため,それがセリフとなった.

– もう1つの説は,セリフを彫り込むことで字画の端点に溜まる石の削りかすを掃き出すために考案されたというもの.

Serif – Wikipedia

このような経緯で発明されたセリフは,様々なバリエーションを持つように進化しました.中でも今回取り上げたいのは,アメリカの西部開拓時代を思わせるセリフの形です.下の画像は, dafont.com というサイトで配布されている Western というフォントです.この Western というフォントは,まさに冒頭で説明したような bifurcated serif (二股セリフ) になっています.今回の動画チュートリアルで作成した「苺」のタイポグラフィと同じです.

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Western Font | dafont.com

「セリフは,様々なバリエーションを持つように進化しました」と書きましたが,それについてここではこれ以上詳しく述べることはしません.代わりに,アメリカのニューヨークにある分野横断的なデザインコンサルタントである Poulin + Morris Inc. の代表のひとりである Richard Poulin が2017年10月に著したタイプフェイスデザインに関する書籍『Design School: Type ― A Practical Guide for Students and Designers』から,セリフの分類を引用してこの記事を終わりましょう.

serif_anatomy_01
serif_anatomy_02

bifurcated serif を入り口に,タイプフェイスデザインの奥深さを感じられたことでしょう.

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