【眺墨賞】Tokyo-Font for Internet #046

眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

眺墨賞 表彰盾

第46回となる2020年8月の受賞は Tokyo-Font for Internet です.Tokyo-Font for Internet は株式会社エヌフォーが2002年4月10日に発売を開始したビットマップフォントです.2021年12月現在でおそらく販売が停止されており,商品ページは準備中の状態です.Wayback Machine で過去の姿をわずかに見ることができます (最新は 2021/04/08 の版).

Tokyo-Font for Internet

極小サイズに圧縮された表現力

Tokyo-Font for Internet がビットマップフォントとして特徴的なのは,極めて小さいサイズのグリフを実装している点です.大きい方から 14pt / 12pt / 10pt / 9pt と取り揃えており,中でも最小の 9pt は驚異的な小ささです.

しかも Tokyo-Font fot Internet では文字間隔を詰めてレイアウトしても線画が隣同士で繋がってしまわないよう,縦横1列を使用せず空白のままに残しています.そのため 9pt サイズのグリフでは実質的には 8×8 のマス目のみを使用して漢字を表現しているのです!この極めて狭い表現の幅の中でも Windows 標準シフト JIS 文字セットに準拠した膨大な文字種 (NEC 選定 IBM 拡張文字を除く) を巧みに構築したデザイン技術は圧巻です.

ドットの楷書化が帯びる不足感?

さて,サイト内の画像から確認できる一部のグリフを見てみましょう.

9pt のフォント

上の画像に書かれた漢字を読み取れるでしょうか?もしかすると読み取るのに慣れが必要かもしれませんが,「等幅収録 新標準」とかなり自然に読めることと思います.これをあえて楷書に戻してみると,こういった感じになるでしょうか.

ビットマップフォントの楷書化 (?)

楷書化してみると情報量が増えるので,当然読みやすさ (文字の判別しやすさ) は向上するでしょう.これはこれで「アリ」で,面白い味わいがあります.しかしある種の「物足りなさ」も感じることと思います.元の Tokyo-Font for Internet のグリフからは字画の物足りなさを感じないのに,情報量が「多い」はず楷書化グリフが「物足りなさ」「不足感」を帯びてしまうのはなぜでしょうか?

「省略」でなく「重畳」に真髄あり

省略が微妙にしっくり来ない理由を,タイプバンク社の林隆男氏のもとデザイナーとして制作に携わった高田氏のコメントがはっきりと示しています.

低ドットのデザインは線を無くすというより、1ピクセルを両方の形にシェアする感覚。だから「鶯」の「火火」の中央の2点は片方を無くすんじゃなくて、両点を表現してるつもり。「嘉」も中央の「口」であり、「ソ」であり、「力」の上の突き抜けに見せてるつもり。

Yumi Takata on Twitter (@Yumit_419)
引用が言及するグリフ その1「鶯」 (出典: アナログとデジタルの境界を越えるドット書体)
引用が言及するグリフ その1「嘉」 (出典: アナログとデジタルの境界を越えるドット書体)

氏の主張はつまり,低ドットの書体デザインの際にデザイナが考えていることは「いかに省略するか」ではなく,「いかに画同士を重ねて共有するか」であると言うのです.つまり先に掲載した「ドットの楷書化」はデザイナの意図を正確に反映しておらず,それ故に意図されていなかった「物足りなさ」を帯びてしまっていたのです.

実際には漢字の画を省略しているのではなく,重ね合わせることで少ないドットの中でも豊かな表現力を実現しているのです.「収」の字のみ 8×8 ドットで十分に表現されているため,ここでは他の6字について,字画が重畳している様子を観察して味わってみましょう.Tokyo-Font for Internet のグリフと Noto Sans のグリフの対応する画に同じ色を塗っています.

竹冠の横画の下側の重畳はスマートでとても見事
数の多い縦画が合理的に重畳され絶妙なバランスを確保
意外と金偏を少し変形するだけで 8×8 ドット内に表現可能
6画目 (木の横画) と払いを綺麗に重畳し圧縮
「西」の縦画 2本や,「西」「示」の横画 3本を重畳し字形を美しく維持
重畳を駆使して横画 4本を整理し,厳しい制約下でも可読性を実現

このようにして見ると,8×8 ドットというとても限定的な範囲の中で,Tokyo-Font for Internet が豊かな表現力を達成している理由が「重畳」にあるということが,手に取るように読み解けたことと思います.「省略」でなく「重畳」に真髄あり,というビットマップフォントの本質を垣間見たように感じます.

参考文献

この記事は,造字沼ブックス (@zojinuma) 氏による記事『アナログとデジタルの境界を越えるドット書体-林隆男「The TYPEBANK」(1985年)』を参考にして執筆しました.ここに謝辞を掲載し申し上げます.

高田氏のコメントも造字沼ブックス氏へのリプライでした

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