今回のチュートリアルでは,市松模様のある立体的なボールのイラストを作成します.チュートリアルに登場した「市松模様」は,デザインソフトウェアにおいて最重要で興味深い歴史を持ちます.今回の記事ではそれについて少しだけ触れてみましょう.

Inkscapeでは,透過背景を市松模様で表示することができます.透過背景を市松模様にした状態の画面は下の画像のようになります.

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Inkscapeでは,デフォルトで透過背景に市松模様を表示するように設定されていません.デフォルトの白背景を市松模様に変更するには,「ファイル > ドキュメントのプロパティ」から設定を開き,「ページ」タブ下部の Checkerboard background のチェックを入れます.

Screenshot from 2018-03-05 08-20-06.png

私 (初州) がInkscapeの仕様で少し気になるのは,この市松模様の大きさです.「もう少し大きくても良いのではないかな…」と思っています.あまり模様が細かいと,市松模様として認識するのが難しくなり,ただのグレー1色に見えてしまうからです.

GvsI比較.png

上の画像はGIMPの透過背景を示す市松模様と,Inkscapeの市松模様を同じ大きさで表示して比べたものです.GIMPの市松模様のほうが一回り模様が大きく,そのため「グレー1色に見えてしまう」という事態が起きにくくなっているように感じます.


ところで,市松模様が透過背景を意味するために使われ始めたのはいつ頃でしょうか?当然ながら,グラフィックソフトウェアが開発されてから今までのどこかのタイミングで「透過を市松模様で表現しよう」と判断した人がいるはずですが,それはどこの誰なのでしょうか?

幸いなことに,ある程度の回答は出されています.市松模様が透過背景にはじめて使用されたのはAdobe Photoshop 3.0だそうです.Adobe Sytems Inc.のThomas Knoll (トーマス・ノール) 氏はPhotoshopがなぜ市松模様を透過背景を意味するものとして使用したかについて,次のように説明しています.

実はこの表現は、バイオロジーの分野(生物学など)から来ているという。もともとバイオロジーの分野では「透明なガラスの下に白黒のチェッカーボードを置いて物を置く」という表現があり、長い間「透明」を表現するためにチェッカーボードが用いられていたそう。そこからヒントを得て、Photoshopの「透明」は市松模様で表されている。

Photoshopがレイヤーをサポートしたバージョン3.0は1994年にリリースされています.1994年以前の生物学の論文で,透明なガラスの下に白黒のチェッカーボードを置いて対象を観察しているような物を見付けることが私はできませんでした.しかし例えば2001年に発表されたイカの皮膚の起こる擬態に関する研究の論文では,イカを市松模様の下敷きの上に乗せています.

F4.large.jpg

しかしこれは透過を確認するために市松模様が敷かれているのではありません.擬態する対象環境として人工的に設置されたに過ぎません.もし生物学を専攻で,観察対象を市松模様の上に置いて観察している論文をご存じの方はぜひ初州にご教示ください!

ともかく,市松模様はデザインソフトウェアで透過を意味する特別な模様です.今回の記事は豆知識的ではありますが,デザインに関連するお話としてお読みいただければ幸いです.

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