【眺墨賞】ピカチュウ大量発生チュウ! #021
眺墨賞は,素晴らしいデザインのロゴ・タイポグラフィなどに対し敬意を表し,独自に表彰するすみながめの企画です.毎月1つの作品を選び出し,素晴らしい作品のデザインの特色を解説します.

第21回となる2018年7月の受賞は,ピカチュウ大量発生チュウ!です.ピカチュウ大量発生チュウ!は2014年に初めて開催され,大変な好評ぶりから以後毎年開催されている人気のイベントです.今回の受賞対象は,その中でも2018年開催のロゴで,2018年には8月10日(金)から16日(木)まで横浜みなとみらいで開催されました.2018年に開催されたイベントの副題は「SCIENCE IS AMAZING かがくのちからってすげー!」でした.

初州がこのイベントを知ったのは,みなとみらい線のラッピング電車を見たからでした.そして,そのラッピング電車に書かれたピカチュウのイラストがとても印象に残ったことを覚えています.そのイラストが今回の受賞対象です.

ピカチュウのイラストはライティングを意識して陰影が付けられ,立体的に描かれています.しかし,特徴的なのは陰影が滑らかでないことです.古いゲーム機やコンピュータグラフィックスのように,頂点数の少ない3Dモデルのように見えるこのようなデザインは,「ローポリデザイン」とか「ポリゴンスタイル」と呼ばれています.
こうしたローポリのデザインを作成するチュートリアルの動画はYouTube上でたくさん見ることができます。例えば下の画像はLincung Studio – Graphic DesignerというYouTubeチャンネルのSpedart Landscape low poly design | PHOTOSHOPという動画でその作成方法が解説されています。たくさんの三角形で構成されたこのようなデザインが、まさにローポリデザインです。

ローポリデザインは、フラットデザインの進化系の1つです。フラットデザインは単純、平坦なデザインを最大の特徴としています。フラットデザインが流行する前に主流だったスキューモーフィックデザイン (質感や特徴など現実世界のモチーフを模倣したデザイン) への印象的なカウンターでした。

しかし2012年ころから流行しているフラットデザインは、デザインの最終解答ではありませんでした。フラットデザインは、それが持つ「ミニマルで簡潔」という基本的な特徴を残したまま、いくつかの変種やバリエーションに派生していきました。例えばオリガミデザインやマテリアルデザインは、人気のあるフラットデザインの派生形の例です。
そして、今回のピカチュウのロゴで採用されている「ローポリデザイン」も、フラットデザインの変種の1つと見ることができます。光源や陰がしっかりと意識された彩色になっているため、もはやフラットさは失われ、多くのローポリデザインは立体的に見えます。しかし、基本的なコンセプトである「ミニマルで簡潔」という点では変わりありません。2013年に書かれたある記事では、ポリゴンスタイルは次のように説明されています。
今年は出来るだけ不必要なものは削り、必要最低限の情報でデザインを表現する「ミニマリスム」なデザインが主流でしたね。 そんな中、写真やオブジェクトなど様々なもので「フラットデザイン」とまではいかないものの、同じ意思を次いだデザイン方法『ポリゴンスタイル』が秘かに流行を見せていました。
秘かに流行『ポリゴンスタイル』の制作方法 〜 illustrator 〜 | 株式会社レジット
ポリゴンスタイルではグラデーションが必要ありません (もちろん使用したければ使うこともできます) 。そのためデザインの中で使用される色数を制限することが容易です。グラデーションのような柔らかい影でなく、堅い影で重なりを表現するシャドーブレイクが流行しているのと同じ理由です。その結果として紙面の構成をシンプルに留めることができます。

一方でその中途半端な立体感のために、見るものが感じるインパクトは大きいです。このピカチュウも、これまでに見たことがない質感を持っているので、忘れられないデザインになることに成功しています。その意味でローポリで描かれたピカチュウのイラストは、イベントの広告として見事にその責務を果たした優れたデザインであると言えるでしょう。
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